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ロシア 核保有国の経済が崩壊するリスク
市川 眞一
2022/03/18

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概要

ロシア軍がウクライナに侵攻してから3週間、首都キエフを中心に激戦が続いている模様だ。この侵略戦争は、ウクライナ国民の辛苦に止まらず、ロシア経済へのダメージも極めて大きくなるのではないか。天然ガス、原油の輸出は減少が避けられず、ロシアは外貨の獲得に苦労するだろう。ルーブルの暴落で物価が上昇、核保有国の政情が不安定化する可能性は否定できない。



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ロシア経済:資源輸出は強さでありアキレス腱でもある

1998年の経済危機を経て2000年5月に就任したウラジミール・プーチン大統領は、ロシア経済の再生に成功した。1999~08年までの10年間、同国の実質経済成長率は6.9%に達し、国民1人当たりのGDPは倍増している。国民がプーチン大統領の強権的な政治を受け入れてきたのは、経済面での豊かさを実感できたからではないか。

高成長を支えてきたのが天然ガス、石油など資源の輸出だ。世界銀行によれば、2020年の同国のGDPに占める輸出の比率は31.6%に達し、日本の19.1%を大きく上回る。年によりバラつきはあるが、ロシアの輸出の半分は燃料だ(図表1)。プーチン大統領の取り巻き財界人と言われる「オリガルヒ」の多くは、エネルギー関連産業の関係者に他ならない。

一方、旧ソ連時代の名残と考えられるが、ロシアは研究開発ではIT系を中心に優れた成果を示してきた。ただし、一般労働者のスキルがかならずしも高くないため製造業は弱く、外資系企業の力なくして国内産業の高度化は難しい。それでも、資源輸出で外貨を稼げることから、2021年9月末のロシアの対外純債権は5,743億ドルに達している。つまり、資源輸出はロシアの強さであると同時にアキレス腱なのだ。

 

自ら引き起こした経済危機:核保有国の政情が不安定化するリスク

ロシアは世界の天然ガス純輸出の40%を供給している。域内消費量の42%を同国に依存するEUにとり、その安定調達は経済の重要な要素だ。従って、2014年3月にロシアがクリミア半島を編入した際、欧州、米国、そして日本の制裁は極めて中途半端なものだった。ウクライナ侵攻に当たり、傀儡政権を短期間に樹立できれば、西側は結果を受け入れざるを得ない・・・プーチン大統領はそう考えたのかもしれない。

しかしながら、戦闘は既に長期化し、ウクライナ国民の犠牲は日を追うごとに大きく、深刻になっている。西側諸国は、段階的にせよロシアからの資源調達を縮小せざるを得ないだろう。それは、原油、天然ガスの価格を高止まりさせる可能性が強い。軍事的脅威ではないが、民主主義を護る代償として、日米欧はそのコスト負担を求められていると言えよう。

もっとも、ロシア経済への打撃はより深刻と考えられる。日米欧の経済・金融制裁でルーブルは急落、ロシア中央銀行は外貨準備のかなりの部分を使えなくなった。物価の急騰は避けられず、国民の生活は急速な悪化が予想される。経済成長を支えてきた資源の輸出も縮小は避けられないだろう。

ロシアが国家債務の不履行に追い込まれた1998年の経済危機は、慢性的な欠乏状態にあった旧ソ連時代の記憶が色濃く残るなかで、ロシア国民は窮状を乗り越えた。しかしながら、豊かな暮らしを既に経験した現代において、長期化する西側の経済包囲網に耐えるのは簡単ではないだろう。

プーチン大統領への批判がロシア国内から高まり、核保有国の政情が不安定化するリスクを考えておくべきではないか。


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市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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