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インフレ対策の補正予算はインフレを助長する
市川 眞一
2022/04/08

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概要

政府・与党内では物価高対策として補正予算の編成論が台頭しているようだ。もっとも、その財源は概ね全額が新規財源債の発行で賄われるだろう。結果として長期金利に上昇圧力が掛かれば、日銀は連続指値オペで10年国債を無制限に購入することになる。それは、インフレ期に日銀が量的緩和を拡大することになり、円安を通じてむしろインフレを助長する可能性が強い。



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補正予算:編成なら財源は概ね国債になろう

4月に入って生活必需品の値上げが相次ぎ、消費者物価の上昇圧力が強まりつつある。7月に参議院選挙を控えていることから、政府・与党内では2022年度補正予算の編成を急ぐべきとの意見が強まっているようだ。

2022年度当初予算では、一般会計107兆5,964億円のうち、34.3%に相当する36兆9,260億円が国債発行によって賄われることとされた。一方、税収は前年度比7兆7,870億円増の65兆2,350億円と見積もられているが、かなり高いハードルと言えよう。つまり、補正予算を編成するならば、その財源は概ね国債の発行により賄われる見込みだ。

足下、インフレ観測を背景に長期金利への上昇圧力が強まっている。大型の財政政策となれば、その勢いはさらに増すだろう。イールドカーブ・コントロールの下、連続指値オペを実施している日銀は、10年国債の利回りが0.25%を超えないよう、買い入れを増やすことが予想される。

ちなみに、第2次安倍政権が本格的に稼働した2013年度以降、2021年度末までの9年間、普通国債の発行残高は276兆7,794億円増加した(図表1)。一方、日銀は量的緩和の一環としてこの間に保有する普通国債の残高を427兆6,730億円純増させ、長期金利を安定させてきたのである。

結果として、発行済み普通国債の52%を日銀が保有している模様だ。極めて強力な実質的財政ファイナンスであり、主要先進国において、戦後、ここまで踏み込んだ中央銀行を探すのは難しい。それができたのは、量的緩和が実は物価に影響を与えず、日本経済がデフレだったからではないか。

意図せざる量的緩和:円安を通じて物価をさらに押し上げる

日銀が購入する国債は資産に計上され、同時に負債勘定にある当座預金の超過準備が積み上げられてきた。具体的には、2013年度に入ってから2022年2月まで、金融機関が預け入れた超過準備は416兆8,332億円増加している(図表2)。その額は、この間の日銀による長期国債の保有残高増加額とほぼ同規模に他ならない。

中央銀行の超過準備の増加は即ち量的緩和だ。つまり、イールドカーブ・コントロールの下、財政政策が実行される場合、かならずしも意図しない量的緩和が行われる可能性が強い。それは、インフレに対応した経済対策が、実はインンフレを助長するリスクとなり得ることを意味している。

FRBのラエル・ブレイナード理事は、5日、ミネアポリス連銀などが主催したカンファレンスでリモートにより講演、5月3、4日の次回FOMCでFRBの資産圧縮に踏み切る可能性を強く示唆した。米国が金融引き締めを強化し、日本がゼロ金利政策を維持した上で一段の量的緩和を行う場合、為替はさらに円安方向へと振れるだろう。そうしたポリシーミックス上のリスクを政治が認識していないとすれば、円安、そしてインフレを政策的に止めるのは難しいのではないか。

 

市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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