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ステーブルコイン(テラUSD)急落に思ったこと
梅澤 利文
2022/05/25

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概要

暗号資産のビットコインなどは、価格変動が激しく決済として使用するには不都合です。その点、同じ暗号資産ながら価格安定のメカニズムを取り入れたステーブルコインは決済の点で実用的と考えられ、時価総額も急増していました。しかしステーブルコインの1つであるテラUSDが急落により、ステーブルコインのリスクに注目が集まっています。当局に新たな対応が求められそうです。



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テラUSD急落:ステーブルーブコイン急落を受けイエレン財務長官は規制の必要性を示唆

暗号資産(以前は仮想通貨)市場で、2022年5月の第2週に、ステーブルコイン(ドルなど法定通貨との価値が連動するように設計されている)の「テラUSD」が急落しました(図表1参照)。同じステーブルコインに分類されるテザーやUSDコインの価格にも多少の変動は見られましたが、それらの価格水準は概ね維持されています。

イエレン米財務長官はテラUSDの急落について、5月12日に米下院金融委員会でステーブルコインのリスクが浮き彫りになったと述べています。イエレン長官はテラUSD急落を受け、ドルに連動するよう設計された暗号資産の危険性を指摘すると共に、新たな規制の必要性を訴えています。なお、米財務省はステーブルコインの危険性についての報告書をまとめているとも述べています。イエレン長官は「現在の規模では金融安定への脅威とは見なさないが(図表2参照)、非常に急速に成長しており、銀行取り付け関連のリスクと同様の危険性を呈している」とも述べています。

ステーブルコイン、時価総額急増に示される、光と影

ビットコインに代表される暗号資産は通常、通貨と見なすには値動きが激しく、仮想通貨という呼び名は、暗合資産に改められました。しかし、ドルなどの法定通貨と価値が連動するように設計されたステーブルコインは価格の安定がうたい文句となっています。

もっとも、ステーブルコインがその名の通り(価格が)安定しているのか、もしくは価格安定の仕組みに不安は無いかなどについて、国際決済銀行(BIS)等の金融当局はレポートでたびたび警告をしてきました。新しいところでは米連邦準備制度理事会(FRB)が5月に公表した金融安定化報告でもステーブルコインのリスクを指摘しています。

ステーブルコイン市場を概観すると、時価総額順位ではテザー、USDコインなどが上位に位置しています。暗号資産全体の時価総額ではビットコイン、次いでイーサリアムが1位と2位ですが、ステーブルコインのテザーとUSDコインは暗号資産全体の中でも時価総額順位は3位と4位で、上位に位置しています。ステーブルコインは価格が安定していることから、海外では決済に利用されるケースもあるようで、これを反映してか、その時価総額は急増しています。

今回の価格の急落で話題(問題)となったテラUSDの時価総額は足元6億ドル程度で図表2のその他の一部となっています。しかし、急落前の時価総額は180億ドル以上でした。

ステーブルコインは大きく、担保型と無担保型の2つに分けられます。担保型はドルなど法定通貨建の安全資産の保有を裏づけとして価値を安定させる仕組みです。なお、担保型にはコモディティや他の暗号資産を裏付けとするタイプもありますが、多くは法定通貨の担保型です。担保型の例として、代表的なテザーを取り上げると、テザーは発行枚数と同程度のドルを保有することで、価格安定を確保する仕組みで、安定的と考えられています(後述)。

一方、急落したテラUSDなどは無担保型に分類されます。無担保型のステーブルコインは、アルゴリズムなどにより価格を安定させることがうたい文句となっています。テラUSDが暴落した本当の原因は不明ですが、イメージとして、テラUSDの価格が安定していたのはテラUSDの供給量の調整です。テラUSDの価格が1ドルを上回るときは(テラUSDを支えるトークンで暗号資産のルナの消却により)テラUSDの供給を増やし価格を低下させるイメージです。反対にテラUSDの価格が1ドルを下回るときはテラUSDを消却して供給を減らし、価格を押し上げるのが安定のメカニズムです。5月前まではこのメカニズムが価格を維持してきましたが、このメカニズムが機能しなくなったのが価格急落の背景と思われます。

テラUSDが急落した詳細な背景は今後の報告を待つ必要はありますが、無担保型のステーブルコインに対する視線は今後厳しくなることも想定されます。

一方、担保型のステーブルコインの価格は、一時的に変動しましたが、図表1にあるように落ち着きを取り戻しつつあります。ただ、担保型でも問題が無いわけではありません。例えば昨年の話ですが、米商品先物取引委員会(CFTC)はテザーの担保(準備資産)が不十分であることを指摘したことがあります。また、準備資産として米国債だけではなく、コマーシャルペーパーなどが保有されていました。

その後準備資産の開示は定期的に行われるなど改善されてはいますが、開示の期間が適切かなど課題は残されていると思われます。

ステーブルコイン、目先の対応と今後の課題

価格が急落したテラUSDは回復の目処が今のところ立たない状況である一方、主要なステーブルコインの価格は概ね安定しています。しかし時価総額を見ると減少傾向で、保有者には不安心理が残ることがうかがえます。

テラUSD下落の背景は今後の報告等で明らかになることと思われますが、イエレン財務長官が指摘するように新たな規制が求められると思われます。

テラUSDの今回の急落は、価格安定のアルゴリズムのぜい弱性に加え、ステーブルコイン保有に対するインセンティブの仕組みにも問題があったとのではという指摘もあり、今後の原因究明でより明らかになることが望まれます。また、問題はテラUSDに固有のものかなど、当局に精査が求められそうです。なお、ステーブルコインでビジネスをするには儲かる仕組みが必要です。安定的と考えられている担保型のステーブルコインでも準備資産の運用などを収益の1つとしているとすれば、このような仕組みに注意を払う必要があるかもしれません。

なお、テラUSDの急落を受け国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は、ダボス会議でステーブルコインの決済における有用性や可能性を指摘したうえで、ステーブルコインを一律に否定しないことを求めています。筆者も同じ考えで、新たな規制の導入は必要としても、新興国などで需要がみられる中、一律禁止のような措置は回避されるべきと考えています。

最後に、より長期的な観点で、筆者はステーブルコインの将来について見通すことが出来ない部分もあります。それは今後、本格的に中央銀行がデジタル中央銀行通貨(CBDC)を導入した場合のステーブルコインの役割や位置づけです。一部中央銀行のレポートでは、(当然のことながら?)ステーブルコインが将来の決済の主役になることに対し、やや懐疑的なようです。そこまでの予想をするには、筆者は役不足ですが、今後の展開に関心を持ち続ける必要はあると考えています。


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梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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