Article Title
英国の社会実験が示すコロナ収束への道
市川 眞一
2021/08/27

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

英国政府が発表した『イベント調査プログラム フェーズIII』の報告書は、「with コロナ」状態において大規模イベントが開催可能であることを示した。これは経済活動にも応用できるものだが、鍵は明らかにワクチン接種だ。日本国内ではデルタ型による感染第5波が猛威を振るい、学校のクラスターと家庭内感染が懸念される。ただし、2022年には経済活動が正常化するのではないか。



Article Body Text

英国の社会実験:「withコロナ」下での経済活動の在り方示す

8月20日、英国政府は新型コロナに関する『イベント調査プログラム フェーズIII』の報告書を発表した。同調査は4月から実施され、フェーズIIIではサッカー欧州選手権、テニス全英オープン、F1の英国グランプリなどが対象とされた。ワクチンの2回接種を条件に、観客を入れて大規模イベントを行い、新型コロナの感染状況を追跡調査したものだ。

結果を見ると、サッカー欧州選手権は、開催時期におけるイングランド地方の平均感染率を上回った(図表1)。もっとも、これは決勝に地元イングランドが進出、当日はチケットを持たない集団がスタジアムに乱入し、感染対策が守られなかった結果だ。ほぼ同時期に行われたテニスのウィンブルドン大会は、2週間でのべ30万人以上の観客を会場に入れたが、感染率はイングランドの平均を大きく下回った。英国政府は、ワクチン接種者がルールを守れば、「大型の文化・スポーツイベントを安全に開催することは可能」と総括している。

 

感染第5波に見舞われている日本でも、同様の傾向を示すデータが公開された。8月18日、大阪府が開いた新型コロナウイルス対策本部の会議で提出された資料によれば、6月1日〜8月15日までに確認された府内の新規感染者は3万2,740人、重症者326人、死者は101人だった。このうちワクチンの2回接種後14日以降に発症した人は303人に止まり、このカテゴリーに重症者、死者はいなかった。

また、内閣官房、厚労省のデータでは、8月23日時点において、2回目のワクチン接種率と直近1週間における人口対比の新型コロナの新規感染者を47都道府県別に見ると、負の相関関係が明らかになる(図表2)。これは、ワクチン接種の進捗が、感染抑制に効果的であることを示すだろう。

 

2022年の日本経済:正常化へ向かうが元通りにはならない

こうして内外のデータを見る限り、新型コロナの新規感染、重症化抑止に関して、ワクチンは極めて有効だ。日本が米欧に周回遅れで感染のピークを迎え、経済活動の障害となっているのは、ワクチン接種の出遅れが要因と言える。医療従事者への接種は終了、高齢者も84.1%が2回の接種を完了したものの、12~64歳の2回目の接種率は19.0%に過ぎない。足下、10代以下の感染が急増していることから、新学期が始まりつつある学校でクラスターが発生した場合、家庭内感染を通じて第5波を長引かせる可能性もあるだろう。

もっとも、このところ1日120万回程度のペースで接種は進んでいる。この状態を維持できれば、年内には国民の80%程度が2回のワクチン接種を終えるのではないか。

新型コロナウイルスは、感染症の専門家が驚くほど変異が速く、当面、完全に撲滅するのは不可能と見られる。一方、英国の大規模イベントの例で明らかなように、ワクチンの接種に加え、「with コロナ」を前提として過度の密集の回避など一定のルールを課した状態であれば、2022年には日本でも経済活動の正常化が図られるだろう。

ただし、「正常化」は必ずしも元に戻ることを意味しない。新型コロナがもたらした社会・経済の変化は、ポスト・コロナ期にも引き継がれ、それは市場にも影響を及ぼすのではないか。


関連記事


投資家が2023年から学ぶべき5つの教訓

中国:2024年のマクロ経済展望

11月21日 Market Monthly

2023年10月のバイオ医薬品市場


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら