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ロシア国債のこれまでと今後の動向
梅澤 利文
2022/05/11

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概要

ロシア国債は格付けも取り下げられるなど国際社会の制裁の荒波を受けていますが、ギリギリでデフォルトを回避しています。仮にデフォルトとなればロシアのみならず、制裁を科した側にも影響が及ぶことが見込まれます。制裁を受ける側と科した側の影響をはかりにかけながら、追加制裁の内容が検討されると見られ、今後の展開に注意が必要です。



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ロシア中央銀行:ルーブル安対応が成果を見せる。ただロシア国債には問題が残る

ロシア中央銀行は2022年4月29日、政策金利を従来の17%から14%に引き下げると発表しました。利下げは4月8日に続き2会合連続となります(図表1参照)。通貨ルーブルの持ち直しなどを受け過度なインフレ懸念が後退する中、景気下支えにも配慮したとロシア中銀は説明しています。

次に、ロシア国債についてです。米国のイエレン財務長官は5月10日、米国の金融機関と投資家がロシア政府による債務返済を処理・受領(じゅりょう)することを認めた制裁例外措置について、更新を見送るかどうかを財務省が活発に検討していることを明らかにしました。イエレン財務長官のコメントは制裁例外措置の更新の可否が現在検討中であることを示唆した内容です。

なお、米政府はロシアに対して包括的な金融制裁を科している一方で、ロシアの中央銀行、政府系ファンド、財務省が3月1日より前に発行した債券の利払いについては5月25日まで容認することとしています。

ロシア国債、紆余曲折を経てドル建で元利払いを実施

ロシアルーブル高傾向が続いています。ルーブル高の背景については先月当レポートで、ロシア中銀の利上げ政策に加え、特に効果的なのは資本統制、例えば外貨の引き出し抑制やロシア企業が獲得した外貨の8割をルーブルに交換(ルーブル買い)といった政策であることを紹介しました。

今回はロシア国債の動向を振り返り、今後のポイントを述べます。国際社会の経済制裁を受け、ロシア国債、特に外貨建て国債(ユーロ債券)の債務不履行(デフォルト)に対する憶測がしばしば報道されています。ロシア外貨建て長期債の格付け動向を、主な格付け会社についてみると、ロシアがウクライナに軍事侵攻後、格付けは急激に引き下げられています(図表2参照)。ただ、欧州連合(EU)が3月15日にロシアの法人や事業体などを対象とした信用格付けの提供禁止を決定したことから、格付け会社は3月末前後にロシアの格付けを取り下げ(WR)ています。格付け会社がWRとする前のロシアの格付けはCC(またはCa)でしたが、これはデフォルトに陥っているか、あるいはそれに近い状態にあるが、一定の元利の回収が見込めると判断される債務に対する格付けとされています。ロシアのデフォルトはギリギリで回避されたまま、格付けが停止された格好です。

なお、S&Pグローバル・レーティング(S&P)は4月4日を支払期日とするロシアのドル建てユーロ債(22年償還債と42年償還債)の元利払いをルーブルで行ったとの認識から選択的デフォルトとした後に、ロシアに関する格付けを停止しました。しかしこの時点では支払猶予期間は終わっておらず、そのうえロシアは4月末にドルで債務支払を実施した模様です。ロシア財務省は4月29日、支払代理人である米大手銀行のロンドン支店にドルを送金したと明らかにしました。内訳は22年償還のユーロ債で5億6480万ドル、42年償還債で8440万ドルとなっています。ロシアは経済制裁で海外の外貨準備が凍結されていますが、国内のドル準備を取り崩して支払いを行ったと報道されています。

ロシアが上記2本の債券の元利払いを4月4日の時点でルーブル建で払うとしていたのは、米財務省はその時点では米銀が保有するロシア政府のドルを支払いに認めなかったからです。しかし匿名報道によると、米国もドルでの支払を容認したものと伝えられています。

制裁例外措置が停止となればロシア国債の今後の元利払いに不透明感が高まる可能性

ロシアのエネルギー輸出は減少傾向ながら継続しています。したがってロシアの輸出企業は外貨収入があり、それが資本統制のルーブル買いの原資の一部と見られます。金額は把握できていませんが枯渇してはいないようです。ロシアはウクライナへの軍事侵攻後も約29億ドルの外貨建て債務の支払いを実施しています。

ただし、イエレン財務長官は冒頭述べたように、制裁例外措置を今後も継続するか検討していることを明らかにしています。仮に制裁例外措置が停止となれば、ロシアの外貨建て債券の元利払いは困難となる事態も想定されます。

注目はロシア国債が万一デフォルトした場合の波及効果の検討でしょう。ロシアのデフォルトのダメージは信用喪失などですが、そもそもロシア債券は格付けも停止されており、債券発行などは考えにくいと思われます。資金の流れを断ち切ることに重点があるのかもしれません。

反対にロシア債券の投資家側には直接的なダメージが想定されます。ロシアに対する経済制裁と金融システムへの負担を比較して制裁例外措置の継続を検討するのではないかと考えています。

ただ、ロシア国債デフォルトによる金融システムへの影響について過度な懸念は以前より若干後退した可能性も考えられます。ロシア国債は軍事侵攻前であってもロシアの格付けは投資適格格付け(BBB-)ギリギリの水準で、投資家は主にファンド系と思われ、そのロシアへの配分は比較的小さいと見られるからです。先日、米連邦準備制度理事会(FRB)が公表した金融安定報告でも、ヘッジファンドのロシアのエクスポージャについて言及が見られました。同報告書は米証券取引委員会(SEC)の非公開情報から、ヘッジファンドのロシア投資は比較的小規模であると言及しています。もっとも、同報告書もあくまで知りえる範囲でと但し書きをしており、思わぬ抜け穴には注意が必要です。

イエレン財務長官は制裁例外措置の継続の可否を近いうちに公表するとしています。判断の影響について、注視が必要と見ています。


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梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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