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- バイデン大統領が注力するIPEFとは何か?
ジョー・バイデン大統領が就任後初めて訪日する。日米豪印4ヶ国のQUAD首脳会議に出席するほか、岸田文雄首相とウクライナ情勢、対中政策などに関し協議する見込みだ。そこで注目されるのは、バイデン大統領が提唱する『インド太平洋経済フレームワーク(IPEF)』だろう。ただし、関税を含まず、条約でもないとされるIPEFの実効性は不透明で、中身を詰めるのはこれからだ。
TPPではなくIPEF:米国の国内事情で王道を行けず
通商における保護主義は、関税障壁と非関税障壁から構成される。そこで、関税の削減・撤廃を目指すのが自由貿易協定(FTA)であり、関税に加えて知的財産保護や投資ルール、労働制度など非関税障壁を含むのが経済連携協定(EPA)だ(図表1)。2国間か多国間かに関わらず、締約国・加盟国が相互に自国・地域の市場を開放する枠組みであり、いずれにしても関税が重要な要素であることに違いはない。
昨年10月27日、オンライン形式で開催された第16回東アジア首脳会議(EAS)において、バイデン大統領は初めてIPEF構想に言及した。さらに今年2月11日、ホワイトハウスは『インド太平洋戦略』を発表、IPEFについて、インド太平洋地域における通商促進、デジタル経済の拡大、サプライチェーンの回復力強化、インフラ投資の喚起などを目指す枠組みであることが示されている。
もっとも、IPEFは通商に関する多国間のフレームワークとしては極めて特殊と言えるだろう。理由は、関税を対象とせず、議会の承認を必要とする条約・協定でもないとされているからだ。背景には、米国国内において、関税を軸とした自由貿易協定への強いアレルギーの存在があるだろう。
ジョージ・W・ブッシュ大統領は、APEC全体を包括する『アジア太平洋自由貿易圏構想(FTAAP)』を提唱、高い基準を設けることで、実質的に中国の排除を目指した。それが『環太平洋パートナーシップ(TPP)』であり、バラク・オバマ大統領もこの戦略を踏襲したのである。しかしながら、次のドナルド・トランプ大統領は、就任初日の2017年1月20日、TPP交渉から離脱する大統領令に署名、米国のインド太平洋戦略、そして対中戦略は大きく方向転換したと言えよう。
ロシアによるウクライナ侵攻もあり、バイデン大統領は対中戦略の見直しを迫られている。しかし、米国の国内事情からTPPへの加盟は難しいようだ。そこで、関税を含まず、議会の承認も必要のないIPEFの概念を捻りだしたと言えよう。
複雑なインド太平洋:IPEFが機能するかは極めて不透明
問題はIPEFの実効性だ。米国の関税率引き下げが期待できず、自国の非関税障壁の縮小を迫られるならば、新興国にとりIPEFに参加するメリットは不透明と言える。一方、日本政府は、TPP加盟こそが米国の本来採るべき道と考えているのではないか。萩生田光一経産相は、5月10日の閣議後会見で、IPEFに関し「加盟国のメリットが不明瞭」と率直に語った。
米国もそうした指摘は十分に認識しているだろう。IPEFの交渉の柱とする「公正な貿易」、「サプライチェーンの回復」、「インフラと環境への投資」、「税制と腐敗防止」の4つの分野に関し、個々の国が全ての議論に参加する必要はなく、個別に選んで参加できる方式を導入する模様だ(図表2)。
それでも、今のところASEAN10ヶ国でIPEFへの参加が見込まれるのはシンガポールだけと言われている。トランプ前大統領がTPPから離脱したツケは、米国のインド太平洋戦略に大きなダメージを与えていると言えるだろう。
岸田首相は、バイデン大統領の訪日で緊密な日米関係をアピールし、中国を牽制する意向と見られる。また、岸田政権が重視する半導体に関し、IPEFを通じて日米両国を軸としたサプライチェーンの再編成を図る目論見ではないか。
ただし、インド太平洋は非常に複雑だ。例えば、ベトナム、インドは中国と緊張関係にある一方、ロシアとは長期に亘り良好な関係を維持してきた。バイデン政権がIPEFを武器にこの地域の国々を自陣に引き入れることができるのか、そのシナリオは極めて不透明と言えるだろう。
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