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参議院選挙で勝利した岸田政権の死角
市川 眞一
2022/07/11

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概要

安倍晋三元首相が凶弾に斃れる想定外の状況の下で行われた参議院選挙は、自民党が63議席を得て圧勝し、岸田文雄首相は長期政権の礎を築いた。2024年9月の自民党総裁選へ向け、同首相は最大与党の党首として憲法改正を推進する可能性がある。もっとも、経済・金融政策の抜本的な見直しがなければ、円安とインフレのリスクが岸田政権への圧力となろう。



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岸田政権:長期化で目指すのは憲法改正!?

今回の参議院選挙で、自民党は改選前を7議席上回る63議席を獲得、改選過半数を単独で上回った(図表1)。過去10回の参議院選挙で、同党が改選過半数を得たのは3回に止まる。就任以来の10ヶ月間において、昨年10月の衆議院総選挙に次ぐ国政選挙での勝利により、岸田首相は政権基盤を固めたと言えるだろう。


次の参議院選挙は2025年7月であり、衆議院の任期満了は同年10月だ。もっとも、自民党総裁選挙が2024年9月に予定されている。岸田首相は、それまでの2年間を活用して実績を挙げ、2024年の通常国会会期末に衆議院を解散するシナリオを描くのではないか。この総選挙に勝てば、総裁選での再選が確実になるため、岸田政権は6年に亘る長期政権化の道が見えて来る。ちなみに、戦後、33人の内閣総理大臣のなかで、6年以上在位した首相はわずか3人だ。

岸田首相が目指す具体的な実績が、憲法改正となる可能性は否定できない。理由は1)新型コロナとウクライナ戦争により、各種世論調査で改憲に肯定的な国民が増えていること、2)自民、公明両連立与党に改憲に積極的な日本維新の会、国民民主党を加えれば、衆参両院で改憲勢力が国会発議に必要な3分の2を超えること(図表2)、3)改憲をライフワークとした安倍元首相の遺志を継ぐことで、岸田首相は自民党内において指導力を強化でき得ること・・・の3点だ。

経済政策:変化のリスクを嫌うことで背負うリスク

改憲の発議は国会が行うもので、制度的には内閣が主役ではない。しかし、最大与党の党首として、岸田首相のリーダーシップは極めて重要だろう。また、関連法制や手続きなどを考えると、内閣の負担は極めて大きいと想定される。国論を二分する議論になる可能性も強い。改憲のプロセスが始まれば、岸田政権は経済政策について大きな変化を避け、これまでの財政・金融政策の継続を図るのではないか。

その場合、日本経済が抱えるリスクを認識しておく必要がある。日銀がイールドカーブコントロールを継続し、財政の拡大が続くと、円安が進んで意図せざるインフレになる可能性だ。ロシアによるウクライナ侵攻に象徴されるように、世界は分断の時代に進みつつあり、地域紛争の頻発で資源価格には上昇圧力が生じ易い。資源に乏しい日本は、本来、国際的な物価高の影響を抑制する経済政策が望ましいが、むしろ政府・日銀は主要国の引き締めの動きに逆行している。


参議院選挙での与党の勝利は、事前の世論調査などから想定でき、特段のサプライズではない。むしろ、岸田政権が経済政策の転換を目指すのか、それとも従来の姿勢を継続するのか、それを市場は織り込もうとするだろう。改憲に関する議論はもちろん重要だ。ただし、そのために経済政策でリスクを嫌えば、より大きなリスクを負うことになるのではないか。

 


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市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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