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- 日米経済版2+2 米国の狙い
7月29日、ワシントンにおいて『日米経済政策協議委員会(経済版2+2)』の初会合が開かれた。この枠組みの最大の目的は、経済安全保障の観点から日米主導で半導体のサプライチェーンを形成することだろう。もっとも、ジョー・バイデン大統領の外交は極めて強かであり、日本政府の資金提供に期待する一方で、果実の多くは米国が収穫する意図なのではないか。
経済版2+2の目的:台湾に依存しない半導体サプライチェーン
「経済版2+2」は、今年1月21日のオンラインによる岸田文雄首相とバイデン大統領の首脳会談で設置が決まった。29日の初会合では、1)ルールに基づく経済秩序を通じた平和と繁栄の実現、2)経済的威圧と不公正で不透明な貸付慣行への対抗、3)重要・新興技術と重要インフラの促進と保護、4)サプライチェーンの強靭性の強化・・・が議題になったとされるが、いずれも念頭には中国があり、特に重視されたのが日米による半導体サプライチェーンの構築だろう。
会合後の共同会見において、ジーナ・レイモンド商務長官は、「重要なことは、技術の決定的な部分に関する我々の敵国への依存度を減らすことだ」と語った。名指しこそしなかったものの、暗に中国などを”adversaries(敵国)”としたのは、極めて過激な表現と言える。それだけ、米国は中国を強く意識していることの裏返しではないか。
ちなみに、この経済版2+2会合に先立つ28日、米国連邦議会は『2022年半導体及び科学法』を可決、バイデン大統領が署名して成立した。同法の予算総額は5年間で2,800億ドルであり、半導体関連産業への補助金、債務保証などが527億ドル、半導体製造に関する投資への税額控除が240億ドルだ。アリゾナ州フェニックスにおいてTSMCの最先端半導体工場が建設中だが、バイデン政権は巨額の補助金により米国における半導体の製造コストを下げ、台湾にあるファウンドリーの生産設備に依存しない半導体サプライチェーンの構築を目指していることは間違いないだろう。
日本でも昨年12月20日に『特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律』(5G促進法)及び『国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)法』の改正案が成立、2021年度補正予算に6,170億円が計上された。既にTSMC、ソニー、デンソーが建設中の熊本工場に最大4,760億円、キオクシアとウェスタンデジタルの四日市における合弁工場に最大929億円の助成金交付が決まっている。もっとも、日本には世界のトップ10に入る半導体メーカーはない(図表)。国内最大のキオクシアでも2021年は13位であり、国別のシェアは8.8%に止まった。そこが米国の狙いである可能性は否定できない。
バイデン大統領の深慮遠謀:日本に求めるコストの分担
半導体は巨額の研究開発投資、設備投資が必要であり、且つ市況性の極めて高い産業だ。米国といえでも1国でサプライチェーンの全てを掌握することは不可能だろう。従って、バイデン政権の戦略としては、米国が最先端半導体を手掛ける一方、日本政府の補助により日本国内においてTSMCなどによる先端工場の建設を促す考えと見られる。
また、中国が最先端半導体の製造技術を獲得しないように、日本の半導体製造装置メーカーに対し、対中輸出の抑制を求める可能性は否定できない。そのためにも、日本を「経済版2+2」の枠組みに閉じ込めることが重要と言えそうだ。一方、TSMCをはじめ世界有数のファウンドリーを擁する台湾だけでなく、2021年に売上高世界1位となったサムソン、3位のSKハイニクスを持つ韓国に対し、日米両国の枠組みへ参加を求める意向だろう。
「経済版2+2」は、経済安全保障に関する米国の対日重視に見えるが、むしろサプライチェーンを構築、維持するためのコストの分担が真の目的ではないか。日本の場合、国内に米国を脅かす可能性のある半導体メーカーはなく、非常に付き合い易いパートナーと言えるかもしれない。。
バイデン大統領は米国国内において支持率の低迷に喘いでいる。しかしながら、その外交戦略を甘く見ると、美味しいところを全て持って行かれることになるだろう。
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