Article Title
12月米PCE価格指数は利上げ幅縮小の支持だろう
梅澤 利文
2023/01/30

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

23年1月31日から2月1日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)を前に、金融当局が注目する物価指標である個人消費支出(PCE)物価指数が発表されました。12月の前月比の上昇は11月を上回りましたが、全体としてインフレ率の減速感を示す内容と見られます。12月のPCE物価指数は次回FOMCにおける利上げ幅の縮小を支持する内容であったと見ています。



Article Body Text

米PCE物価指数:前年同月比に物価上昇の減速感、前月比は小幅上昇

米商務省が2023年1月27日に発表した12月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比で5.0%上昇と市場予想に一致し、前月の5.5%上昇を下回りました(図表1参照)。前月比は0.1%上昇と、市場予想の0.0%を上回り、前月の0.1%上昇と一致しました。

エネルギーと食品を除くコア物価指数は前年同月比が市場予想通り4.4%の上昇で11月の4.7%上昇から減速しました。コアPCEは前月比0.3%上昇と市場予想に一致し、前月の0.2%上昇を上回りました。12月はコア・総合価格指数ともに、前年同月比に物価の減速感が見られました。

米金融当局は価格動向を把握するうえで、PCEコア物価指数を重視

米連邦準備制度理事会(FRB)が物価動向を見るうえで重視するPCEコア物価指数は昨年12月が前月比で0.3%上昇と前月の0.2%上昇を上回りました。しかし、物価がある程度抑制されている目安と筆者が考える前月比0.3%上昇以内に、昨年10月から3ヵ月連続で収まっています。

PCEコア物価指数を、財、住宅関連を除いたサービス価格に分けて考えると、財価格を構成する耐久財、非耐久財ともに12月は前月比がマイナス(各々マイナス0.3%とマイナス1.0%)と11月に続き低下が示されました。

住宅関連については足元上昇傾向が続き、12月は前月比で約0.8%上昇と依然高水準でした。しかし、住宅関連の価格動向については当該指数が住宅市場の動向を遅れて反映することが市場でも認識されているため懸念は後退しています。

なお、当局は住宅関連指標の制度を改善し速報性を高める動きがみられます。クリーブランド連銀と労働省労働統計局(BLS)の研究者が共同で公表したペーパーに指数が発表されています。

住宅関連の価格指数の特色

住宅関連の価格動向を表す指標の速報性を高めた指数として新規の賃貸契約などで構成された指数(NTRR:new-tenant repeat rent)が公表されています(図表2参照)。

図表2でも明らかなように、PCEの住宅関連価格指数は足元でも上昇傾向です。一方で、NTRRは22年7-9月期に減速しています。住宅市場の悪化を踏まえると、NTRRの即時性が高いように思われます。

一般に消費者物価指数(CPI)も含め住宅関連の指標は賃料データをベースに作成されます。この時、サンプリングを行いますが、全体の動向を見るため、ランダムにサンプリングします。物価指標は社会保障などにも参照されるため、全体の動向を把握するのは、その点合理的です。しかしながら、速報性を重視する場合は新規の契約を集計して物価指数を算出します。NTRRはこの考えに沿って開発されているとみられます。

当局が最も重視する指標に注目

住宅関連価格指数の低下は、足元認識できていませんが、NTRRなどを見る限りその公算は高いと思われ、金融当局の懸念も以前に比べ低いようです。一方、それでも価格上昇圧力として残る可能性があるのが住宅関連を除いたコアのサービス価格です。昨年12月は前月比で0.32%上昇し、前月の0.28%を上回りました。

サービス部門の価格は米国では依然インフレ圧力の要因と見られます。サービス部門の価格は賃金動向に左右される傾向があります。今月末の雇用コスト指数や来月月初の米雇用統計など賃金に関する重要指標が公表されるため、結果を確認する必要はありますが、すでに公表されている他の賃金指標(アトランタ連銀の賃金トラッカーなど)は依然水準は高いものの、賃金にもピークアウト感が見られます。

なお、住宅関連を除いたコアサービス価格はヘルスケア関連の価格動向にも左右される傾向があります。特に年末には医療サービス価格の見直しの影響があるため当面、単月の動きを見るうえで注意は必要です。

このような注意点は残るものの、12月のPCE物価指数全体を通してみると、足元で市場が織り込む、次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)において利上げ幅を0.25%に縮小させる動きに影響を与える可能性は低いと見られ、市場予想通りの結果となる可能性が高いと思われます。


関連記事


議事要旨に垣間見る、QTのこれまでと今後

米利下げ開始時期に加えQT終了の議論にも注目

あのSECがビットコイン現物ETFを承認


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら