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ニュージーランド準備銀行、中立金利を引き上げ
梅澤 利文
2023/08/29

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概要

ニュージーランド準備銀行はジャクソンホール会議前に中立金利を引き上げました。これが米国の中立金利引き上げ観測を高める一つの要因となった可能性もあります。ただ、ニュージーランド準備銀行の中立金利引き上げの動きなどを見ても、中立金利はあくまで目安に過ぎず、政策金利を決定するには、景気やインフレ動向、海外要因など幅広いデータの確認を重視しているようです。



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NZ準備銀行、政策金利を据え置く一方で、中立金利を引き上げ

ニュージーランド(NZ)準備銀行(中央銀行)は2023年8月16日に開催した金融政策決定会合(会合)で、市場予想通り、政策金利(OCR)を5.50%に据え置きました(図表1参照)。NZ準備銀行は声明文で、現行水準の政策金利は引き締め水準にあることを指摘するとともに、予見可能な限りはOCRを引き締め水準に据え置く必要があると指摘しています。

また、NZ準備銀行は同日に発表した金融政策報告で、景気を熱しも冷やしもしない政策金利水準とされる長期的な名目OCR中立金利(自然利子率)を2.0%から2.25%に引き上げることを明らかにしました。

NZ準備銀行の中立金利推定値には示唆に富む内容がみられる

8月24日~26日に開催されたジャクソンホール会議で中立金利が主要な検討課題となるのではとの憶測が高まりました(実際は肩透かし)。そのような中、NZ準備銀行は以前から中立金利を比較的、進んで公表しています(図表2参照)。

NZ準備銀行の中立金利に関する解説などを参考に今回の中立金利引き上げの影響などを考えます。NZ準備銀行は長期、短期に加え、その中間的な中期的な予測期間に対応させた中期の中立金利などを発表しています。図表2で中立金利の動向を振り返ると、①コロナ禍前まで3つの中立金利は揃って概ね低下傾向であった、②コロナ禍を契機に、各中立金利の動向にバラツキがみられるとともに、特に短期中立金利が上昇している、③政策金利は結果的に中立金利の近辺を推移している、ことなどが図表2から観察されます。

①の中立金利の低下傾向について、背景は様々考えられますが、主な要因は人口動態の変化、生産性の低下、投資や貯蓄に対する消費者、企業、政府の姿勢の変化などとNZ準備銀行は説明しています。生産性の低さは、NZ固有の要因であり、NZは生産性の低い部門の全産業に占める割合が他国に比べ高い点などを指摘しています。

②の中立金利が短期、中期、長期の順で上昇傾向となっているようにみられます。なお、図表2の各期間の中立金利はともに名目値が示されています。したがって実質中立金利に期待インフレ率が加えられたイメージとなっています。注意したいのは期待インフレ率は期間に応じて異なっているとみられる点です。例えば短期の名目中立金利を求めるには複数の短期の期待インフレ率指標の平均を代替として利用する一方で、長期名目中立金利では物価目標(インフレ率が1~3%)の中央値である2%を使用しています。期間による期待インフレ率の違いが、コロナ禍をへて長、中、短の各名目中立金利の動向に大きく影響しているようです。特に短期の期待インフレ率は振れが大きく、したがって短期の名目中立金利の変動も大きくなる傾向があるようです。NZ中銀も短期名目中立金利の変動の高さに注意を促しています。

中立金利の推定値と政策金利の関係に注意が必要とみる

短期名目中立金利は政策金利であるOCRが現時点で設定されたなら、緩和的でも引き締め的でもない水準の目安とNZ中銀は説明していますが、政策金利の判断に短期名目中立金利よりOCRが上か、下かで即断することはないようです。体温計のような便利さには程遠いと思われます。やはり政策金利の水準を決定するには景気、インフレ動向、海外情勢など様々な要因を総合的に検討することにより重点を置いているようです。

今回NZ準備銀行は長期の中立金利を引き上げました。理由は金融政策報告書では簡単に長期金利の上昇などと説明されています。ただ、過去の報告書などを見ると、コロナ禍を経て中立金利の水準は据え置くも、変動が高まっていることを指摘しており、何らかの変化が起きていることも考えられそうです。

長期の中立金利と政策金利の関連を考えると、長期中立金利は利上げもしくは利下げ局面の最終到達点を示唆するとみられます。足元の利上げ局面でいえば、長期中立金利が引き上げられた場合、ほかの条件を一定とすれば、今後の利下げ余地が幾分減る可能性が考えられます。参考までに、NZ準備銀行が長期中立金利引き上げを発表した後、市場では追加利上げの積極化よりも、利下げ開始時期の後ずれを織り込む動きの方が強かったように思われます。

米国ではフェデラルファンド(FF)金利レートの長期見通しが、(長期の)中立金利の代替とみられています。仮に見通しが引き上げられた場合、追加利上げだけでなく、利下げ開始時期の後ずれとして市場が反応することも考えられそうです。


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梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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