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米利下げ開始時期に加えQT終了の議論にも注目
梅澤 利文
2024/01/31

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概要

今年最初の米連邦公開市場委員会(FOMC) は市場予想通り金融政策は据え置きが見込まれる。ただし利下げ開始時期に対するヒントを求めてパウエル議長の会見などに注目が集まりそうだ。加えて、市場では量的金融引き締め(QT)のペース緩和や終了時期について何らかの示唆があるとの観測も台頭している。QT議論は金融安定性の面でも重要だけに早期の議論開始が求められそうだ。



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FRBの量的金融引き締め(QT)のペース緩和も話題となりつつある

米連邦準備制度理事会(FRB)は24年1月30日~31日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催する。1月のFOMCでは金融政策の据え置きが予想される中、市場の最大の関心事は利下げ開始時期のヒントであろう。また、市場の一部では量的金融引き締め(QT、中央銀行が保有する国債などを減らす)のペース緩和についてFRBが何らかのメッセージを示すとの観測もある。

きっかけの1つは米ダラス連銀のローガン総裁が今月6日に、翌日物リバースレポ(RRP)の残高減少などを背景に(図表1参照)、FRBはランオフ(債券償還に伴う保有証券減少)のペースを落とす必要があると述べたことなどによる。

金融引き締めに相当するQTのペースダウンに金融緩和の効果を期待か

中央銀行(米国はFRB)の保有資産(国債等)を拡大させることが量的金融緩和(QE)で、反対に縮小させるQTは金融引き締めの効果があるとされる。FRBは現在、月950億ドル(約14.2兆円)のペースで、償還を迎えた国債と住宅ローン担保証券(MBS)への再投資を抑える形で保有量を減らしている。結果として、FRBのバランスシート(B/S)の規模は縮小を続けている(図表2参照)。QE同様に、QTのペース緩和に金融緩和の効果を期待してなのか、市場の関心も高い。

FRBが前回QTを行ったのは17年10月から19年7月までだ。18年はQTと政策金利の引き上げが同時に進行した。22年も同様だ。このような二重の引き締め時期においては株式市場に下落傾向がある。QT終了における市場への波及を見ると、過去のケースが少ないことから明確なことは言い難いが、国債利回りは低下しても、株式市場の反応は小幅であった。ゼロ金利制約の下で採用される傾向があるQEは金融緩和効果を想定できるものの、QE戦略が終了し、QT後半ともなると金融政策の主体は金利に移っていることが普通であるためQTの停止・終了に目が向きにくい面はあるのかもしれない。

これまでのQTで流動性は枯渇、問題が表面化する可能性に注視

それでも、QTのペース緩和・終了に対する市場の関心は高い。FRBのQT議論開始は金融緩和への準備であることから利下げのサインとして注目される面もありそうだ。

しかし、より重要なのは金融市場の安定性が維持されるかであろう。FRBのB/S規模拡大で秩序を保っていた金融市場では、QTで安定性が損なわれないかが注目されるのである。前回のQTは19年7月まで行われたが、直後の9月に短期金融市場の金利が突如急上昇した(図表3参照)。図表3では翌日物レポ取引の参照レートとしてのSOFR(担保付翌日物調達金利)、政策金利としてのフェデラルファンド(FF)金利を(上限と下限の中央値として)示しているが、政策金利は低下傾向で、 QTを終了させたもののFRBは短期金融市場の変動を防げなかった。原因の特定は困難だが、納税や国債入札など資金不足要因が重なったことが挙げられる。また、QTを終了したとはいえ過去のQTによりFRBの当座預金で供給される流動性がピークの半分程度となっていたことも背景と思われる。

では、足元の流動性は十分か?目安として図表2にあるようにQEによるFRBのB/S拡大で積み上がった準備預金残高をみると、足元で350兆ドル弱と、ピーク時を下回るも、QT開始前の水準から大きく変化していない。短期金融市場のオペレーションに責任を持つニューヨーク連銀の総裁は、ダラス連銀がQT議論開始を求めたことに対し、準備預金残高の水準に懸念を示さなかった。

もっとも、ローガン総裁が懸念を示したのは翌日物RRPの利用(投資、図表1参照)が減少し、残高が激減している点だ。翌日物RRPはFRBが保有する国債を買い戻し条件付きで適格カウンターパーティーに売却する取引だが、この残高が急拡大したのは21年前半から22年末までだ。NY連銀は翌日物RRP拡大の背景を調査しており、その調査結果によると翌日物RRPの残高が拡大したのはMMF(マネー・マーケット・ファンド)経由だった。バーゼル規制を満たすためポジション調整に利用した面があるようだ。この時期は翌日物RRPを利用すると、準備金が減少する傾向がみられた。ところが、最近は緩やかだが準備預金は増加している。この点はNY連銀総裁が述べるように、安心材料のようにも思われるが、翌日物RRPの残高がゼロ近くなってもQTを続ければ流動性はさらに乏しくなると思われる。

別の問題も残されている。流動性の減少で翌日物RRP以外にもこれまでと違う動きをする市場があるかもしれず注意は怠れないことだ。そして一番の問題は、適正な準備預金残高の水準についてFRBの方針が明確でないことだ。このことが市場に疑心暗鬼を生むリスクを過小評価すべきではないだろう。


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梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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