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移民流入は米国経済成長率を押し上げた可能性
梅澤 利文
2024/05/15

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概要

米議会予算局の予測などから想定以上に強い米経済の押し上げ要因に移民流入による人口増加が指摘されるようになった。移民流入数の予測などから判断して想定以上の移民流入の公算は高く、米経済を押し上げたようだ。移民流入には違法移民の問題と、合法移民ながら増えすぎの場合の問題が混同されることもあるが、どちらも政治的に解を探すのは難しい。米大統領選の大きな争点となりそうだ。



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米国の移民流入者数が人口の押し上げ要因であったと見られる

米議会予算局(CBO)は24年1月に米国の2054年までの人口動態予測を発表した。米国の人口増加率は長期的に低下傾向となっているものの、22年から24年にかけて急上昇する様子が示されている(図表1参照)。図表1で、「移民純流入」はある年に流入した移民から流出した移民をネット(純)で示したもので、「出生-死亡」はある年の出生者数と死亡者数の差異を示している。図表では「移民純流入」と「出生-死亡」がある年の人口増加率をどの程度説明するのかを寄与度で示している。24年は「出生-死亡」が約0.2%、「移民純流入」が約1.0%と各々増え、人口増加率は約1.2%となった。

米国の移民流入は22年から24年に急増したとみられる

コロナ禍後の経済再開における米国経済の堅調さの要因として拡張的な財政政策、過剰貯蓄の存在、株高などによる資産効果などが挙げられる。最近では移民流入による人口増加も米国景気の押し上げ要因として注目されている。

図表1に示したCBOの人口動態予測は22年~24年の移民流入が急速な人口増加の背景であることが示されており、市場でも注目されたようだ。

米国への移民はビザの種類も多岐にわたる。内容も雇用から国際養子縁組まで様々だ。その上、非合法の移民も相当数に上る。図表1のCBOによる予測では移民を①永住権を持つ合法移民、② 「(短期的)移民」、特定の専門職などの期限付きの雇用でH1-Bビザなどが該当、③「その他の移民」として①、②以外を集計している。③が不法移民のイメージだがその形態も様々である。

次に、永住資格を取得した移民流入者数の「実績」を米国土安全保障省(DHS)のデータで確認すると(図表2参照)、22年の移民の米国への流入数は約101.8万人だった。

22年の流入移民の内訳を地域別に見ると中南米が約42.4%、アジアが約40.7%と大多数を占め、欧州は9.7%で、アフリカ系も少ない。

国別ではメキシコからの移民が約14万人と最も多く、次いでインドが約13万人となっている。

CBOは23年、24年の移民流入も増加したと予測している。超党派機関であるCBOは(主観を排除した)定量的な分析に基づいて予測するが、移民流入数であれば、新規法案により増加が想定される人数を算出するというイメージだ。そこで23年に提出された主な移民関連の法案を見ると、5月にはエッセンシャルワーカーの職に就く移民の永住権に関する「Citizenship for Essential Workers Act」が提出された。また11月にはヘルスケアワーカーの雇用ビザ取得をサポートする「Healthcare Workforce Resilience Act」が提出されている。バイデン政権は移民受け入れに明らかにシフトしたようだ。不幸にしてコロナで亡くなった方、トランプ政権下の政策で減少した移民(労働力)を埋め合わせる方針のようだ。

移民流入に伴う人口増加は経済成長率を押し上げる可能性が高い

バイデン政権が移民流入の拡大を決めた背景に、労働力の確保が考えられる。CBOは2月に予算と経済の見通しについての報告書の中で、米国の労働力人口の今後10年の見通しを公表した(図表3参照)。点線はCBOが23年2月時点に予測した米国の労働力人口の推移で、実線は24年2月時点の予測である。CBOによると、2033年における労働力人口予測は昨年に比べ520万人増加したとしているが、その増加分のほとんどは移民流入の見通しが増えたためと説明している。残りは推定死亡率の低下が原因と述べている。

移民の増加による経済への影響についてCBOは移民の雇用で全要素生産性(TFP、生産性を表す指標として使われる)が小幅ながら低下すると指摘している。移民の採用が多いサービスセクターでそのような動きが想定される。しかし大切なのは、移民(労働者)のスキルが向上することでTFPは改善し、27年にはTFPのマイナス効果よりプラス効果のほうが大きいと予測している点だ。

国際通貨基金(IMF)は以前、移民の経済効果の試算を報告書の中に示した。それによると、流入移民の総雇用者数に対する比率が1%ポイント増加すると、5年目までにGDP(国内総生産)が約1%押し上げられると述べている。移民が増えると時間をおいて成長率は上昇するということが示された。CBOは生産性についての分析だったが、移民の増加は当初、消費や住宅投資、設備投資などの増加を伴うことが想定される。最近の米国の景気を押し上げた背景と見るのは自然だろう。

米国では移民問題は大統領選挙の主要な争点でもある。移民が成長率を押し上げるとしても、どこまで移民を許容するかも深刻な問題で、政治的に極めてセンシティブな解が求められそうだ。


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梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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