Article Title
欧州グリーンボンド市場の動向
梅澤 利文
2021/09/09

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

新型コロナウイルスの影響を受けた欧州経済の支援策の役割を担う、欧州連合(EU)の復興基金は、その財源をEU名義の債券の発行で調達する。EUによると、総発行額の3割程度にあたる約2,500億ユーロをグリーンボンドで発行することを示唆していた。今回発表された10月の起債を足がかりに、EUが欧州のグリーンボンドをけん引する姿も想定される。



Article Body Text

グリーンボンド:10月にEUが初のグリーンボンドを起債、市場の拡大が期待される

欧州連合(EU)の執行機関の欧州委員会は2021年9月7日にグリーンボンド(環境債)の初回の発行を10月に行うと発表した。新型コロナウイルスの影響を受けた経済の復興支援に必要な資金を調達する復興債発行計画の一環となる。

EUは約8000億ユーロ(約104兆4000億円)規模の復興支援を計画しており、うち約3割強をグリーンプロジェクトが占める模様だ。グリーンボンドの発行で得た資金がこの財源として活用される見込みだ。

欧州の復興基金を基点に、グリーンボンド市場は更なる拡大か

新型コロナの影響を受けた欧州経済の支援策の役割を担うEUの復興基金は、その財源をEU名義の債券の発行で調達する。EUによると、総発行額の3割程度にあたる約2,500億ユーロをグリーンボンドで発行することを示唆していた。今回発表された10月の起債を足がかりに、EUが欧州のグリーンボンドをけん引する姿も想定される。

まず、グリーンボンド市場を簡単に振り返る。

ESG(環境・社会・企業統治)という言葉を聞かない日は無いほどESGは定着したが、株式に比べESG債券はややなじみが薄いようだ。それでもESG債は広がりを見せている。適格環境事業に資金の使い道が限定されるグリーンボンドをはじめ、資金使途が社会事業とされるソーシャルボンド、環境・社会の両事業を資金の使途とするサステナビリティ・ボンド等がある。

今回はグリーンボンドに焦点を当て、その規模を発行額で見ると着実に市場の拡大の様子が伺える(図表1参照)。

なお、図表1は英国のClimate Bonds Initiative(CBI)が公表している世界のグリーンボンドの発行実績を掲載した。グリーンボンドとして計上したのは、CBI認証取得もしくはCBIのグリーンボンドの定義に準拠したもののみとなっている。例えば、今年はこれまで約2670億ドルが発行されているが、CBI認証が約230億ドル、準拠した分は約2440億ドルだ。グリーンボンドとラベル付けされていてもCBIの定義に合致しない約200億ドル弱の債券についてはCBIもグリーンボンドとしては認定していないため、図表1でもカウントされていない。何をもってグリーンボンドと呼ぶのかという課題は残されている。

今回、EUが復興基金の資金調達のためのグリーンボンドの発行に関する枠組みは、欧州を中心に金融機関が加盟する業界団体である国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則に沿った内容と見られる。したがって、独立した外部機関による評価を受けるなど透明性を高めている。欧州委員会は資金の使用使途(グリーンプロジェクトに使われているかなど)の外部評価と、定期的な報告をする予定だ。

なお、EUは今回のEUによるグリーンボンドの発行に関する枠組みとは別に、「欧州グリーンボンド」(EUGB)の基準を設定する規則案を発表している。今後、欧州理事会や議会による検討プロセスを経る必要はあるが、この規則の対象は国などの公的機関だけでなく、社債など民間にも対象となる可能性がある。環境問題で先行する欧州であってもグリーンの定義などには課題は残るが、今後の展開で整備が進むことが期待される。

なお、EU域内ではこれまでに10ヵ国以上がグリーンボンドを発行したと見られるが、今月にはスペインなども発行が予定されるなど広がりを見せている。ただ、発行額が増加する欧州であっても、債券市場全体に比べればグリーンボンドの市場規模は数パーセントと見られる。それでも、今後の市場動向の展開は期待をもって見守りたい。


関連記事


ECB、政策金利の運営枠組み見直しを発表

利下げ開始にそろり、ECBは何を待っているのか?

ラガルド総裁発言のトーンに微妙な変化


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら