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FRBようやくデジタルドル(中央銀行デジタル通貨)報告書公表
梅澤 利文
2022/01/31

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概要

米連邦準備制度理事会(FRB)がようやくデジタルドル報告書を公表しました。なお、日本銀行の黒田総裁は1月28日、中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行できるかについて「2026年までに判断する」と述べました。中国は北京冬季オリンピックで人民元版のCBDCを公開する可能性があり、着々と準備を進めています。日米も準備が整いつつあることを示した格好です。



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デジタルドル報告書:CBDCの潜在的な利点とリスクについて幅広い対話の促進を目指す

米連邦準備制度理事会(FRB)は2022年1月20日、中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する初の報告書を公表しました。米国が今後CBDCを導入するべきかについて是非を問う内容で、CBDCの利点やリスクなどに関する20以上の具体的な質問事項を用意し、5月20日までの4ヵ月間、一般から広く意見を募るための討議資料の形式となっています。

日銀の黒田総裁は1月28日の衆院予算委員会で野党議員の質問に答える中、CBDC発行の可否を26年ごろまでに判断する考えを示しました。日銀では、すでに技術的な実証実験を開始していますが、黒田総裁は「制度設計の検討もそろそろ始める」と述べており準備を進めていることがうかがえます。

デジタルドルについて、FRB内部でも賛成、反対に分かれる

米国の中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)であるデジタルドル、これに関する報告書は昨年夏ごろから公表が示唆されていましたが、公表はのびのびとなっていました。日銀の黒田総裁も質問に答える形ながら、CBDCの可否について初めて時期に言及しました。中国のCBDC(デジタル人民元)のお披露目が想定される中、日米共に準備が進んでいることを一応示した格好です。

今回のレポートでは米国のデジタルドル報告書の内容を振り返ります。まず、報告書はデジタルドルのプラス面とマイナス面を両論併記して、今後の議論のたたき台という体裁です。FRBがデジタルドルを発行するのか、しないのか報告書からは明確ではありません。

報告書ではデジタルドルのプラス面として主に次の5点を指摘しています。①信用リスクや流動性リスクが低いデジタル決済の提供、②海外(国境を超える)取引における決済の改善、③現在米ドルが確保している国際取引市場における独占的な立場、もしくは優越的な役割を維持する、④経済的理由などで銀行口座を持てない人の金融アクセスの改善(金融包摂)、⑤安全な中央銀行通貨へのアクセス手段を増やす、といった点をあげています。例えば、米国では銀行口座を持たない人の割合は人口の約5%程度と報告書は指摘しています。理由は様々ですが口座開設のコストもネックです。CBDCがより安価にアクセス手段を提供できる可能性を指摘しています。報告書は米国の決済システムは健全に機能しているとする一方で、改善が必要な分野のひとつに非効率な海外取引の決済を指摘しています。CBDCは国境を越える取引のコストを低下させる可能性をプラス面として指摘しています。

反対にマイナス面としては、①CBDCにより金融市場の構造が変化してしまう危険性、例えば銀行が貸出の原資とする預金からCBDCに急激に置き換わるケースなどを指摘、②金融危機におけるCBDCへの資金流出、③金融政策の効果に対する不透明性が高まる可能性、などが指摘されています。

また、問題点として、CBDCにおけるプライバシー保護の問題や、サイバーセキュリティ、マネーロンダリングなどの金融犯罪に対する取り組みの必要性にも言及しています。

報告書全体の印象として、FRBメンバーの賛成、反対をバランスよく反映させたようにも見受けられます。FRB高官の中でも、CBDCに賛否両論が見られます(図表1参照)。

賛成派筆頭は副議長昇格が予定されているブレイナード理事で、FRB内部でもCBDCを推進する立場であることから、当然の姿勢ともいえます。

一方、過去の言動からウォラー理事や、すでに辞職したクオールズ元理事(昨年10月に副議長任期満了、12月に理事を退任)などがFRBのCBDCに懸念を表明していました。反対の理由として、両氏とも過去の講演などで、米国は少額資金決済システムとしてすでにシステムが出来上がっており、そのうえ、さらに便利なFedNowが今後稼動する計画で、何故新たにCBDCを導入する必要があるのかといった疑問を呈しています。また金融包摂についてウォラー理事は、銀行口座を持たない人の多くはアンケートを見ると、コストではなく、その気が無いのが理由と指摘したうえで、人口の5%が口座を持たないというが、その中でCBDCを利用したい人はごく一部で、結局人口の1%程度に過ぎないと推定されると述べています。その上で、その1%のためにCBDCを導入する意義があるのか疑問である述べています。

ただ、反対の理由の中には、中央銀行が個人に口座を開設するアカウント型でのCBDCの運営を懸念している面もあります。アカウント型の場合それを管理する中央銀行、つまりFRBの負担が極めて過大となるからです。また、現行法ではFRBは個人に口座を開設できず、その場合議会の協力が必要となり、実現は困難です。

しかし、多くの中央銀行の計画などから、CBDCは民間銀行などがデジタルウォレットなどを通じてデジタル通貨を流通させる二層式の方式が想定されていると見られます。中央銀行によるアカウント型を導入する動きは見当たりません。実証実験などで先行する中国も二層式で、中央銀行の負担懸念は杞憂と思われます。

また、報告書で示された資金流出への懸念なども、保有額の上限を設定することなどで回避することも考えられます。もっとも、今回の報告書では具体的な内容には踏み込んでいないため、今後の展開を待つこととなります。

2月にデジタル人民元は公開予定で、今回のFRBの報告書では5月20日まで意見を募集します。CBDCについて今後の展開に注目が集まると見られます。


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梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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