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- 「正義の制裁」と「天然ガスショック」
ウクライナの厳しい状況が伝えられ、米国、EU、日本などは国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシア系の銀行を締め出すと発表、同国の中央銀行による外貨準備の活用も禁止した。これは極めて強力な制裁措置であり、ロシア経済は機能不全に陥る可能性がある。ただし、正義の代償は小さくないだろう。世界経済は天然ガスショックに見舞われ、インフレが加速するリスクがある。
SWIFTからの排除:ロシア経済は機能不全に陥る可能性
2月26日、米英、EUなどは共同声明を発表、ロシア系銀行をSWIFTから締め出すこと、ロシア中央銀行の外貨準備活用を禁じること・・・の2点を中心とする追加制裁を発表した。3月2日の時点で最大手のズベルバンクは対象から外れたが、同行は既に米国からドル決済停止の制裁を受けている。
北京冬季五輪の開会式が行われた2月4日、ウラジミール・プーチン大統領は習近平中国国家主席と会談、ロシアは天然ガスを中国へ年100億㎥追加供給することで合意した。プーチン大統領は、ウクライナへ軍事侵攻を想定、米欧により課される可能性のある経済制裁を考慮した上で、資源を中心として対中輸出に活路を求めたのだろう。
もっとも、国際決済からのロシアの銀行の排除は実質的な通商取引からの締め出しであり、ロシア経済に極めて大きな打撃となり得る。世界銀行によれば、2019年、日米両国とEUを合わせたロシアの輸出額は2,009億ドルで、ロシアを盟主とする独立国家共同体(CIS)及び中国向けの824億ドルに対して2倍以上の規模だった(図表1)。中国がロシア経済を支えるため輸入を意図的に増やすとしても、日米欧の代替にはなり得ないのではないか。
2014年3月のクリミア・セヴァストポリ編入は、極めて短期間に行われた。また、同半島は人口の97%がロシア系住民であり、抵抗も極めて少なかった模様だ。その結果、ロシアは厳しく批判されたものの、SWIFTから追われることはなかった。
今回はウクライナ国民・軍が激しく抵抗、ロシアが期待したと推測される短期収束は困難な情勢だ。そうしたなか、ウクライナ国民の置かれた厳しい状況が映像として世界に伝えられ、天然ガスの供給をロシアに依存する欧州主要国も中途半端な対応が許されなくなったと言えよう。この状況は、プーチン大統領にとって大きな誤算の可能性がある。
厳しい制裁の代償:インフレが加速するリスクへの備えが必要
侵略の決着は不透明だが、厳しい対ロ制裁は、ロシア経済を大きく落ち込ませるだけでなく、正義の制裁を行う側にも相当な代償を強いるものだ。特にEUの場合、2020年における天然ガス調達のロシア依存度は42%に達している。米国がシェールガスを増産しても、液化プラントやLNGタンカーの制約があり、ロシアの役割を代替するのは困難と考えられる
欧州で天然ガスが不足すれば、それは世界の需給関係にも影響を与え、価格は上昇するだろう。天然ガスだけでなく、ロシアの供給量が大きい原油や穀物も同様だ。結果として、世界経済におけるインフレ圧力が一段と強まるのではないか。
短期間での決着が難しくなり、ロシア軍はウクライナ市民を巻き込む市街戦を選択する可能性がある。そうなれば、この戦争の結果に関わらず、ロシアの国際社会への復帰には相当の時間を要するだろう。資源供給が長期的に滞り、インフレが加速するリスクに備える必要があるのではないか。
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